イラン映画史上最大のヒット作(コメディ映画を除く)で、2019年の東京国際映画祭でも最優秀監督賞と最優秀主演男優賞をW受賞した『ジャスト6.5 闘いの証』と、同年公開のライバルとして高評価を得てやはり大ヒットした『ウォーデン 消えた死刑囚』を同時公開。
名実ともにイランを代表するスター俳優ペイマン・モアディ(ベルリン国際映画祭俳優賞受賞)とナヴィッド・モハマドザデー(ヴェネチア国際映画祭主演男優賞受賞)がぶつかり合う『ジャスト6.5 闘いの証』、同じくモハマドザデーとイランの今を代表する人気女優パリナーズ・イザドヤールが共演の『ウォーデン 消えた死刑囚』。
『ジャスト6.5 闘いの証』のサイード・ルスタイ監督は1989年生まれ。2016年の監督デビュー作「Life and a Day」が、イランのアカデミー賞といわれるファジル国際映画祭でいきなり監督賞・脚本賞を含む9冠に輝いた大器。
『ウォーデン 消えた死刑囚』のニマ・ジャウィディ監督は1980年生まれ。初長編『メルボルン』(2014)が東京国際映画祭でも上映され、今作ではイラン映画批評家&脚本家賞で作品賞・監督賞・脚本賞など主要部門を受賞。またマジッド・マジディ監督(『運動靴と赤い金魚』)の最新作「Sun Children」(2020)ではファジル国際映画祭で脚本賞を獲得している。
ともに監督2作目にして到達したヘヴィー級傑作2本!
街にあふれる薬物依存者の多くはホームレス。薬物撲滅警察特別チームの一員であるサマドは、薬物売人の頂点に立つ大物ナセル・ハグザドを追っている。あの手この手の操作を繰り返したあげく、ついにナセルを彼のペントハウスに追い詰め刑務所に収監する。しかしそれは、ほんの始まりに過ぎなかった・・・。
ずばり、イラン版ドラッグ・ウォー。警察対ドラッグ組織の娯楽大作です。冒頭(タイトル前のシークエンスで早くも度肝を抜かれる)からエンディングまで、ド迫力の横綱級作品。こんなイラン映画、ちょっと見たことない。娯楽大作だけれども、単純に商業映画とも言い難い。作家性がダダ洩れしている。
警察がドラッグ組織を追い詰めて行く物語で、小物ドラッグディーラーから徐々に上の大物へとターゲットを辿っていくプロセスが大胆に、スピーディーに、意外性ふんだんに、壮絶な迫力を伴って描かれていきます。ジャンキーたちの暮らす地域、留置所の中、運び屋の姿、取り調べ、全てが規格外。監督2作目でこんな大作を完成させたとは、まだ30歳のこの監督は末恐ろしいです。
特徴的な甲高い声で指揮を執り、容疑者を激しく尋問する部長刑事役に、アカデミー賞外国語映画賞受賞の『別離』(2011)のペイマン・モアディ(同作でベルリン映画祭俳優賞受賞)。いまやイランで最も有名な俳優のひとりと言っても過言でないかもしれません。
対するギャングの親玉に、ナヴィド・モハマドザデー。彼は近年急激に頭角を現している存在です。僕もここ数年のイラン映画で最高の1本だと思っている「No Date No Signature」(2017)に主演し、罪の意識に苦しむ医師を見事に演じてヴェネチアの主演男優賞を受賞、一躍トップ俳優に躍り出ました。本作ではふてぶてしく苦境を脱しようとするギャング姿が抜群にはまっています。ベルリン映画祭受賞俳優 VS ヴェネチア映画祭受賞俳優。人気と実力を兼ね備えたスター俳優の激突! これはもうたまりません。
東京国際映画祭プログラミング・ディレクター
矢田部吉彦氏
1966年、イスラム革命前のイラン南部にある刑務所。新空港建設のため立ち退くことになり、所長のヤヘド少佐は、囚人たちを新しい刑務所へ移送する任務を背負うことになった。無事任務を果たせば大きな出世を約束されていて、それは彼にとって難しいことではないと思われた。ところが一人の死刑囚が行方不明との報告が届く・・・。
長編デビュー作『メルボルン』(2014)が東京国際映画祭をはじめ世界80以上の映画祭で上映され12の賞を得た、1980年生まれの俊英ニマ・ジャウィディ監督待望の長編第2作。ヴェネチア国際映画祭や東京国際映画祭で最優秀主演男優賞を獲得するなど、勢いに乗るナヴィッド・モハマドザデーと、人気女優パリナーズ・イザドヤールの出演を得て作り上げた会心の大作。極めて高い評価を受け興行的にも大成功を収めた。シリアスな社会派ミステリー・ドラマでありながらサスペンス、スリル、ロマンスに満ちコミカルなところもある第一級のエンタテインメント映画
この映画はタイトルが示すように刑務所ドラマだが、同時に、とても奇妙なひねりとロマンティックコメディの要素を加えた、ある種の寓話でもある。監獄の荘厳さは神がここのどこか、その深奥部に隠れていることを示唆している。
イヴ・タシュネット(アメリカ・マガジン)
監督Director
サイード・ルスタイ監督『ジャスト6.5 闘いの証』
1989年テヘラン生まれ。ソア大学の芸術・映画演出学科を卒業。2016年の第1回長編監督作「Life and a Day」(『ジャスト6.5 闘いの証』と同じく、ペイマン・モアディ、ナヴィッド・モハマドザデー、パリナーズ・イザドヤール共演)が、イランのアカデミー賞といわれるファジル国際映画祭で監督賞・脚本賞を含む9冠。2作目となる『ジャスト6・5 闘いの証』はイラン映画史上最大のヒット作となり(コメディ映画を除く)、東京国際映画祭でも監督賞を受賞。
ニマ・ジャウィディ監督『ウォーデン 消えた死刑囚』
1980年生まれ。機械工学を学んだ後、99年から短編映画の制作を始める。初の長編映画『メルボルン』(2014)はペイマン・モアディ主演で、東京国際映画祭でも上映された。2作目となる『ウォーデン 消えた死刑囚』は、イラン映画批評家&脚本家賞で同年の『ジャスト6.5 闘いの証』と各部門で争うことになったが、作品賞・監督賞・脚本賞など主要部門を受賞。また『運動靴と赤い金魚』などの名匠マジッド・マジディ監督の最新作「Sun Children」(2020)の脚本をマジディ監督とともに手掛け、ファジル国際映画祭で脚本賞を獲得。
撮影Camera
フマン・ベーマネシュ『ジャスト6.5 闘いの証』『ウォーデン 消えた死刑囚』
1981年生まれ。スラ大学の映画監督コース卒業。2006年撮影監督として独立。2008年にはアッバス・キアロスタミ監督の実験的な作品「シーリーン」の撮影監督を務めるなど順調にキャリアを築き、イランのアカデミー賞といわれるファジル映画祭では撮影賞に6回ノミネート、2回受賞。最新作はマジッド・マジディ監督の「Sun Children」。
音楽Music
ペイマン・ヤズダニアン『ジャスト6.5 闘いの証』
1969年テヘラン生まれ。ピアニスト・作曲家。
<主な作品>
『風が吹くまま』アッバス・キアロスタミ監督(1999)
『水曜日の花火』アスガル・ファルハーディ監督(2006)
『天安門、恋人たち』ロウ・イエ監督(2006)
『スプリング・フィーバー』ロウ・イエ監督(2009)
『仏陀・マウンテン 希望と祈りの旅』リー・ユー監督(2010)
ラミン・コウシャ『ウォーデン 消えた死刑囚』
18歳の時アメリカにわたりLAを拠点にして、ここ10年足らずのうちに映画、TV、ゲームなど40あまりの作品を手がけている。
<最近作>
「Sun Children」マジッド・マジディ監督(2020)
キャストCast
ペイマン・モアディ『ジャスト6.5 闘いの証』
1972年ニューヨークでイラン人の両親のもとに生まれる。父親は弁護士でペイマンが5歳のときイランに戻る。カラジアザド大学で金属工学を専攻。2000年代後半に脚本家として成功する。2009年アスガル・ファルハーディのベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞作『彼女が消えた浜辺』で俳優としてのキャリアをスタート、2年後には同監督のベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『別離』でベルリン国際映画祭俳優賞を獲得。
パリナーズ・イザドヤール『ジャスト6.5 闘いの証』『ウォーデン 消えた死刑囚』
1985年イランの黒海に面したバーボルサル生まれ。大学ではグラフィックアートのコースに進学し、在学中にオーディションを受け「A Man and City」(2007)に出演。その後いくつかのTVシリーズで大成功を収める。『ジャスト6.5 闘いの証』のサイード・ルスタイ監督第1回監督作「Life and a Day」(2016)で主役を務め、ファジル国際映画祭で主演女優賞を受賞。女優の傍ら慈善活動と動物保護運動にも熱心に取り組んでいる。
ナヴィッド・モハマドザデー『ジャスト6.5 闘いの証』『ウォーデン 消えた死刑囚』
1986年テヘラン生まれ。舞台俳優としてもよく知られた存在だが、「Among the Clouds」(2008)で映画デビュー。「No Date No Signature」(2017)でヴェネチア国際映画祭主演男優賞、『ジャスト6.5 闘いの証』で東京国際映画祭主演男優賞受賞。
公開日 | |||
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都道府県 | 劇場名 | 『ジャスト6.5 | 闘いの証』『ウォーデン | 消えた死刑囚』
北海道・東北 | |||
北海道 | サツゲキ | 3月 | 3月 |
宮城 | フォーラム仙台 | 2/12(金)~ | 2/12(金)~ |
関東 | |||
東京 | K’s cinema | 1/16(土)~ | 1/16(土)~ |
神奈川 | 横浜シネマリン | 2/13(土)~ | 2/13(土)~ |
栃木 | 宇都宮ヒカリ座 | 4/3(土)〜 | 4/17(土)〜 |
栃木 | 小山シネマロブレ | 3/5(金)〜 | 3/19(金)〜 |
中部 | |||
静岡 | ジョイランドシネマみしま | 2/12(金)〜 | 2/12(金)〜 |
静岡 | 静岡シネ・ギャラリー | 2/19(金)〜 | 2/19(金)〜 |
愛知 | センチュリーシネマ | 3/12(金)〜 | 3/19(金)〜 |
近畿 | |||
大阪 | 第七藝術劇場 | 2/6(土)~ | 2/13(土)~ |
京都 | 京都シネマ | 2/5(金)~ | 2/12(金)~ |
中国 | |||
岡山 | 岡山メルパ | 2/5(金)~ | 2/5(金)~ |
九州 | |||
福岡 | KBCシネマ | 近日公開 | 近日公開 |
大分 | シネマ5 | 2/6(土)~ | 2/10(水)~ |
熊本 | Denkikan | 近日公開 | 近日公開 |
コメント
隅々までハリウッドのアクション映画と同じくらい刺激的でありながら、イランの社会システムへの洞察が注入されている。サイード・ルスタイ監督の緊迫した上出来のスリラーは単なるアクション映画に留まらない別次元の作品になっている。
ピーター・デブリュージ(ヴァラエティ)